基調講演2
長登 健氏
 みなさんこんにちは。ご紹介いただいた文部科学省の長登健です。まずお話をさせていただく機会を与えて
いただきましたことに厚くお礼を申し上げます。
 本日は生涯スポーツと国民の皆様の健康というテーマをいただいている訳ですか、生涯スポーツの振興は広く
国民の皆様の心身の健康づくりに、また社会の健康づくりに寄与するという観点から、今後の生涯スポーツ振興
について考えていることをお話させていただきたいと思います。
 ただ先ほど、松浪先生のお話を拝聴させていただきましたが、先生のようにグローバルで学問的知見をもとに
されたお話になりますと、私が今からお話させていただく中身につきましては、非常に稚拙なものになると思い
ますので、最初に心からお詫びをさせていただきたいと思います。
 改めて申すわけでもございませんが、スポーツは人々に楽しさや喜びをもたらし、人生をより豊かにするとともに
心身の健康の保持増進に寄与するものでございます。
 また、トップレベルの競技者の活躍には、国民の皆様に夢と感動を与えるものでございます。
 今日、わが国の社会生活環境は著しく変化しております。このような中、国民お一人お一人が自らの健康は
自らの力で保持増進していくという姿勢の下に、主体的にスポーツに親しむ態度や習慣を身につけていくのは
極めて重要なことであると考えています。
 国民ひとりひとりの心身の健康には、運動・栄養・休養・睡眠、さらにはストレスの少ない良好な環境など、心身
の健康に直接関係があることから豊かな自然や芸術文化の鑑賞など、生活の質を高める観点から、関係のある
様々な活動や社会における条件を整えることが必要です。このうち、運動・栄養・休養・睡眠は、基本的な生活
習慣の一部であり、個人のライフスタイルとかかわるだけに個人の主体的な取り組みが不可欠でございます。
 中でも、この科学技術の進展や生活の利便化が進展し、より日常生活における身体活動が減少していくことを
考えますと、個人が主体的にスポーツに親しむことが重要であります。すなわち、今後増大すると考えられる
ゆとりや自由時間を主体的に活用して豊かなスポーツライフを実現していくことが、心身の健康に大いに寄与する
と考えられます。
 また、スポーツが本来持つ多様な意味を考えますと、スポーツを生活に欠かせない文化として国民生活の中に
根付かせていくことが、活力ある健康的な社会を実現させることにつながるのではないかと考えております。
 このためには、まず身近な地域においてスポーツに親しむことができる環境を整備し、国民一人一人が日常
生活の中でスポーツを豊かに取り入れることができる、いわゆる生涯スポーツ社会を実現させることが重要である
わけでございます。
 文部科学省といたしましても、平成12年9月に策定した「スポーツ振興基本計画」に基づき、身近な地域社会に
おいて誰もが生涯にわたりスポーツに親しめる環境を作るため、生涯スポーツ社会の実現に向けての各種施策
の推進に努めているところでございます。
 この「スポーツ振興基本計画」は、わが国のスポーツ振興施策の体系的に整備いたしまして、平成13年度から
平成22年度までの10年間で達成すべき目標や具体的施策について定めてあるわけでございます。若干、内容
につきましては、生涯スポーツ社会の実現に向けた地域における環境の設備充実が1つ。2つめが、わが国の
国際競技力の総合的な向上、そして、1つめとして、この2つの課題に関連し、生涯スポーツ、競技スポーツを
学校との連携により推進するための施策。今申しました3つの主要な課題にそって、本年度から10年間で達成
すべき、実現すべき政策目標を設定するとともに必要不可欠な施策、基盤的な施策を掲げ、今後行うべき施策を
より具体的明確に盛り込んでおるものでございます。
 今後の生涯スポーツ振興の施策展開の方向性につきましては「スポーツ振興基本計画」の生涯スポーツに
関する部分をお話することが早道であるかと思いますので、若干お話を続けさせていただきたいと思います。
 この「スポーツ振興基本計画」につきましては、充分ご理解いただいている方もあると思いますし、また文部
科学省のホームページにも全文掲載されておりますので、是非ご覧下さい。
 まず、この計画の策定の経緯についてでございますが、冒頭申し上げましたような今日のわが国の社会生活
環境の急激な変化がその渦中にあるわけです。その先21世紀も急激な変化は、より一層進んでいくと考えられ
ているわけですが、またそれに伴う国民の皆様の意識の変化やスポーツに対するニーズも非常に多様になって
くると思われます。このような国民の皆様の多様なニーズに対応できるような、また競技力の向上につながるよう
なスポーツ環境の整備が21世紀を迎えた今日、改めて今まで以上に求められています。
 さらに、新たにスポーツ振興制度が実施されるのにふまえ、スポーツ振興を巡る諸課題に体系的、計画的に
取り組むことが望まれます。こうした状況をふまえまして、文部科学大臣は、スポーツ振興法に基づき平成11年
9月「保健体育審議会」現在は「中央教育審議会スポーツ青少年文化会」でございますけれども、この保健体育
審議会に対しまして、「スポーツ振興基本計画」の在り方について諮問を行ったところでございます。諮問を受け
た保健体育審議会では、スポーツ振興に関する及び特別委員会を設置し、11回にわたる審議を重ねていただき
ました。
 そして、平成12年8月に方針をいただき、その方針をふまえ、同年9月、策定したものが「スポーツ振興基本
計画」でございます。
 さて、この基本計画で掲げられております生涯スポーツ振興に関する政策目標は2つございます。
 1つめが、国民誰もがそれぞれの体力や年齢、技術、興味関心に応じて、いつでもどこでもいつまでもスポーツ
に親しむことができる生涯スポーツ社会を実現すること。2つめとして、できる限り早期に、成人の週1回以上の
スポーツ実施率が2人に1人になることを目指すというものでございます。この2人に1人ということにつきまして
若干説明いたしますと、審議会の審議の中で行われた委員の先生の言葉を借りてお話するわけでございますが
このバックベースになっておりますデータとしましては、現内閣府が3年に1度、体力・スポーツに関する世論調査
というものを行っております。この審議いただいているデータは平成9年20歳以上の方の実施率でございます。
集計で、週1回以上34.7%の国民の方がスポーツを行っているというデータでございます。
 それで、この34.7%はアバウトに置き換えますとほぼ3人に1人であります。ちょっと脱線いたしますが、最新の
もので平成12年のデータでは37.2%に若干上昇傾向にございます。故に、3人に1人である週1回以上のスポー
ツ実施者を目標として当面2人に1人、50%までもっていこうじゃないかということでございます。
 このことを逆に申しますと、2人に1人の方が週1回スポーツを楽しまれるようになれば、それを生涯スポーツ社会
であるということではございませんし、それぞれに合わせて週2回でも3回でもいいわけでございます。
 そして、政策目標達成のために必要不可欠な施策として、国民が日常的にスポーツを行う場として期待される
総合型地域スポーツクラブの全国展開を計画的に推進していきたいと考えております。また、政策目標として
計画期間年、今から10年間、全国の各市町村において少なくとも1つは総合型地域スポーツクラブを位置づける
とともに、各都道府県においては、総合型地域スポーツクラブの創設や運営を支援する機能を育成することを
考えております。
 総合型ということにつきましては、3つの多様性を総合的に含んでいるということを指しています。1つが種目、
2つめが世代や年齢、3つめが技術レベルの幅の多様性です。
 地域というのは、このプランの主役は当然地域の住民の方でございます。また、それぞれの地域で育み、発展
させていくのが総合型の地域スポーツクラブであると考えているところでございます。ですから、クラブ作りは画一
的なものではなく、クラブは地域の実状において地域の皆様が主体となって、創設、育成するものであると思いま
す。
 先進事例を見ましても、既存のスポーツクラブとの連携で生まれたクラブ、それから学校の運動部活動と地域
との連携から生まれたクラブ、全国に34000、90万人の子供達が入っておりますスポーツ少年団が核になり
生まれたスポーツクラブなど様々でございます。
 住民の幅広いニーズに応えるプランということになりますと多世代、多種目、多様な競技レベルに対応したもの
を考えざるを得ないということでございます。総合型地域スポーツクラブの総合性というのは地域住民が主体的に
考えることであり、極論いたしますと、住民の幅広いニーズを実現できるスポーツクラブであるならば、どういうクラ
ブでも総合型地域スポーツクラブになり得るとも思っております。
 ですから、総合型とはこういった形であるという定型的な考えを持たずに地域のスポーツクラブの育成はまず、
住民の皆様のニーズやそれぞれの地域にあります課題に根差したクラブ作りの理念を地域で共有していくこと
からスタートしていただきたいと思います。これは、地方公共団体の方、スポーツ団体の担当者の皆様にお願い
しているところでございます。よく聞かれますのが、成功事例を教えてくれということでございますが、私は先程か
ら成功事例という言葉は一度も使っておりません。クラブ作りは、話し合いを始めるところからスタートし、現在の
ところクラブは多々ありますが、それらのクラブが10年後、20年後どのようになっているかは、そのときになって
みないと分からないところでございます。そういった理由から、現在のところは、「育んでいくものである」という
意味から「先例事例はある」とあえて申してからお話させていただいています。それから、行政の担当の方に一番
申し上げているのは「支援していくものである」ということでございます。先日、ある町の方からクラブを作りました
というお話をいただきましたが、「あなたが作られたのですか?」というところで話が途絶えているのです。しかし、
それは違うのではないかというふうに考えております。
 それから、平成7年度のスポーツ振興基本計画から、クラブ作りというものは、つい最近言われ出したものでは
なく、平成7年度からモデル事業という形で始めております。しかし、このモデル事業だけがクラブであるとは
考えておりません。都道府県でも取り組まれておりますし、日本体育協会さん、日本レクリエーション協会さんも
取り組まれておりますし、もちろん行政が言うまでもなく、住民の方がそういうクラブを作っているということは多々
あるように聞いております、現在200ほどは育成に取り組まれていると考えられます。最近、ある方とお話する
機会がございまして、多種目と申しましたところ、「わしは、今まで野球をやってきた。なんで今さらバレーボール
をしなければならんのか」と言われました。そこで私は、「そういう意味ではございません。あなたは野球を楽しま
れる、その横でお孫さんはサッカーをし、たまにあなたがお孫さんを応援し、また野球を指導することによって、
そこのクラブにみんなが集まって話しをする、そういうコミュニティができたら素晴らしいのではないかということを、
私はそのような夢を描いております。」というお話をして初めてその人は理解して下さいました。なぜこの話を
したかと申しますと、私の説明不足を補うためであるという言い訳を含めて申し上げた訳でございます。
 例えば、単一種目のクラブは日本体育スポーツクラブ協会さんによりますと、約35万7千人の会員がおります。
この会員制のクラブを否定する訳ではございませんし、スポーツクラブの中でも多種目を行ったり、それから住民
の方が主体になっている場合もあります。
 クラブの育成を中心とした地域におけるスポーツに関わる皆さんと連携して推進する必要があります。地域住民
の皆さんのニーズに対応できる質の高い指導者の養成、全国展開されるであろう総合型地域スポーツクラブの
育成、またその運営に必要な魅力のあるスポーツ空間の整備・確保、それから地域のニーズに即したスポーツ
情報の提供体制の整備、今から行政も地域住民の主体的な活動を支援するための重点的移行も考えています
し、スポーツ振興基本計画の施策として織り込んでいただいています。
 わが国では、これまでの経済中心型の社会から成熟した市民社会への転換を図るため、従来からの行政指導
型システムを見直す動きが活発になっておりますが、それはスポーツにおいても例外ではございません。
 学校、スポーツ団体、行政に多くを依存してきたシステムを住民の方お一人お一人がスポーツを文化として
それぞれの地域の中でどのように育て、日常生活に定着させていくかを支援するためのシステムに転換すること
が求められております。このことは個人において見た場合、繰り返しになりますが、今後増大することが予想され
る自由時間やゆとりを国民の方一人一人が主体的に活用し、スポーツに対する文化としての理解を深めていた
だき、それぞれのライフステージにおいて継続的にスポーツに親しむ主体性の確立が求められるということになり
ます。
 多世代、多種目、多様な競技・技能の人達で構成される総合型地域スポーツクラブは、地域の皆さんの多様な
スポーツニーズへの対応が可能であり、国民の皆さんを各地域での日常的なスポーツ活動の場として期待して
おるものでございます。
 また、今まで主流だった単一の種目型のクラブに比べ、その規模が大きくなりますので指導者の方の確保や
運営の合理化、安定的な財源の確保、公共性が確保できるというメリットも考えられます。さらに子供から高齢者
の方まで活動でき、クラブの継続性が確保され、様々な種目で技術・技能を持ったような人が集まることによって
広い交流が図られ、また深められる地域作りや地域コミュニティの形成にもつながるものと考えております。
 わが国におきましては、それぞれの地域でスポーツの発展の歴史や施設、人的資源、スポーツ団体など、
スポーツを取り巻く環境、そして人口動態等も様々でございます。
 総合型地域スポーツクラブの実現を目指して、クラブを構成するひとり一人がスポーツサービスの受け手である
と同時に作り手であるという主体性を前提として、各地域で独特のスポーツ文化が確立されることが期待される
ところでございます。スポーツの振興は国民の皆さんお一人お一人の主体的なスポーツへの取り組みがあって
初めて実現するものでございます。
 文部科学省では、このような各々の取り組みを基本としつつ、スポーツの機会を提供する地方公共団体及び
民間のスポーツ団体、そして利用する住民の皆様や競技者の方が一体となった取り組みを展開することにより
一層のスポーツ振興を図り、21世紀における明るく豊かで活力ある健康的な社会の実現を目指していくこととして
おります。
 是非、皆様方のご協力をこの場をお借りしまして、改めてお願い申し上げることでございます。
 大変雑駁なお話になりましたが、私の申しましたことが、日本ティーボール協会の皆様ならびに公認指導者
として直接現場でご活躍の皆様のご参考に少しでもなれば幸いでございます。終わりに本日から2日間にわたる
セミナーが、初期の目的を達成され、ご参加の皆様方にとりまして、有意義なものになりますことを祈念するととも
に、NPO法人日本ティーボール協会の益々のご発展をお祈り申し上げまして、私の話を終わらせていただきたい
と思います。御清聴ありがとうございました。(拍手)
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