10月20日 ダルビッシュ投手は「多彩な変化球」を投げます。打者に打たれないボールです。素晴らしいです!

 アメリカ・ナショナル・リーグ優勝決定戦が、パドレスの本拠地ペトコパークにおいて開催されました。パドレスの先発ピッチャーは、ダルビッシュ有投手。ダルビッシュ投手にとって、この第1試合目の先発を任されるというのは、とても光栄なこと。それは彼がパドレスで最も頼りになる存在という証だからです。

 そのダルビッシュ投手は、昨日7回2失点と好投、失点は4回にハーパー選手に外角高めの速球を本塁打され、6回は今年のリーグの本塁打王シュアバー選手に速球系をライト方向へ大きな本塁打を打たれただけでしたが、味方打線は1安打のみ、結果は0-2での敗戦でした。この日、ダルビッシュ投手は速球系が多く、その速球系(ツーシーム)で7奪三振、その中で5つの見逃し三振はいずれも速球系に見えました。多彩な変化球を投げられるダルビッシュ投手が、得意の変化球が少なく悔しい結果となりました。

 ダルビッシュ投手といえば、多彩な変化球と動く速球で、サイヤング賞の候補にも上がる名投手。メジャーリーグの大打者が、この日本から海を渡った好投手にきりきり舞い。観ている我々は、どれほどダルビッシュ投手の多彩な変化球のピッチングにほれ込んでいたことか。

 「多彩な変化球」といえば、私は2004年11月に「ソフトボール 変化球バイブル」(ベースボール・マガジン社発行)を書きました。2009年には5刷発行。この時代にしてはベストセラーの一つでした。これはソフトボール選手のために書いたのですが、野球関係者にも好評だったと聞いています。この「多彩な変化球」を実践して活躍されているのがダルビッシュ投手だと私は勝手に思っています。

 その本の「まえがき」で私が最初に書いたのは、次の通りです。「投手がボールを投げるとき最も究極的で不可欠な要素は、『打者に打たれないボールを投げること』に尽きる。そのボールは超豪速球でもなく、さまざまな変化球でもない。それでは、打たれないためには、如何にすべきか、という疑問が生ずる。私はこのことを長年熟考し、思案してきたが、現時点における私自身の答えを示したものが本書である」と。

 更に続きます。変化球は、70種類以上投げられる。            

(パート1)ムービング・ファストボールの投げ方。ここでは、ボールの握りを変える、手首をひねる、投球フォームを変えることの大切さを詳述している。また、現時点では、変化球は100種類以上投げられる可能性がある、と。

 (パート2)では、速球は、捕手が捕球できないほどの速いボールを除いては、打者は打てるものである、と。110キロ(野球だと140キロ)前後の速球を打たれないためには、そのボールを動かす(ムーブさせる)ことが重要である。具体的には、速球を上昇(ライズ)させる、沈ませる(シンカーさせる)、カーブさせる、シュートさせること、と。

 (パート3)では、連続写真を使用しての解説。モデルは、アメリカソフトボールのワールドシリーズで最高殊勲選手に選ばれた当時日本のエースであった早稲田大学OBで私の教え子Nと私。そこでは更に「複合的な変化球」を投げましょうと提案。それは、「1球目に速球(11キロ程度)で、まずライズさせ、しかもシュートさせる。2球目は、約85キロでの速度で、シンカーさせ、しかもシュートさせる。3球目は速球(100キロ程度)で、ドロップ(シンカー)させ、しかもスライドさせる。即ち、投手の一球一球が速度の変化(緩急をつける)に加え、カーブさせながらシンカーさせる要素を含んだ投球内容である」と。

 (パート4)(ウインドミル投法短期習得法:略)

 私自身のソフトボール歴は54年(2004年現在)、投手歴45年(2004年現在)そしてウインドミル投法を自力で習得して約39年(2004年現在)が経過している。この間に、ソフトボールの講習会や指導を行うために全国各地を巡ってきた。(中略)このような類書は、アメリカでもわが国でも見られず、私自身が長く考えてきた成果をようやく世に問うこととなった(後略)。

 この本の元になったのは、「ソフトボール・マガジン」(ベースボール・マガジン社発行)、1998年10月から新しく連載を始めた「吉村式驚異のピッチング上達法」です。それは2001年12月まで約3年間続けて書きました。その中には、副題として、「変化球は70種類以上投げられる」があります。

 そこでは「ボールの握りを変える」「縫い目を外して投げる」「指を揃える」「縫い目の利用」「ボールの握りを変える」「4本の指を伸ばして投げる」「フォークボールの握り方」「親指の力を使わないで投げる」「人差し指の指先のみを立てて握る」「2本の指を曲げて握る」「ボールの回転で変化させる」「ひねり上げる」「ひねりながら曲げる」「手の中でボールを動かす」「滑らせる」「切る」「投球フォームを変える」「ステップを狭くするとドロップを投げやすい」「腕の回旋が楽になる」「腕を曲げて高い位置から投げるとドロップが落ちやすい」「肘をあまり曲げずに投げる」「肘をしっかり曲げる(45度程度)」「肘をとことん曲げる(90度程度)」「ひねり落とすドロップ」「横から滑り落とすドロップ」「押し出すドロップ」等、変化球を投げる方法は、まだまだあると、提案したのです。

 それまでの野球やソフトボールに投手指導は、「ボールの回転がいいですね」反対に「ボールが横の回転ではダメ、真っ直ぐ縦の回転にせよ!」「同じ握り、同じフォームで違うボールを投げよ!」「癖のあるボールはダメだ!」こんな指導が一般的でした。私は、その考え方を変えたかったのです。「ボールの回転」なんか関係ない。投手の投球は打者に打たれなければ良いのだ。「同じフォームで違うボールなんか投げられるわけがない。打者にフォームが違っていると分かっても、打たれなければいいのだ!」これが私の理論でした。

 ソフトボール関係者は、この理論に食いついてくる監督、コーチは少なかったのですが、ベースボール・マガジン社出版編集部の長久保氏は違いました。この理論は、ソフトボール関係者だけでなく、野球の指導者にも読ませたい、見せたいという彼の情熱で、この単行本「変化球バイブル」が、世に出たのです。

 この本の実践者が、正にこのダルビッシュ投手と私は考えていたのです。彼の出現で、私の変化球理論が非常に説明し易くなりました。それで、私は、いつもダルビッシュ投手の投球には、人一倍注目していたのです。惚れ惚れするような投球を常に見せてくれるからです。

 昨日は、ナショナルリーグの優勝決定戦という大舞台。そこで速球系(ツーシーム)中心の好投には納得するのですが、欲を言うと、もう少し彼流の「えげつない変化球」が欲しかったですね。試合後のダルビッシュ投手のインタビューを聞きました。スライダーとツーシームを軸に投球したとのことでした。ツーシームとは、以前は日本語でシュートと言ったボールです。高めはシュートしながら伸びて行きます。それが低めに行くと沈みます。ムービング・ファストボールです。

 以前日本語でいうシュートは、大洋ホエールズの平松投手、読売ジャイアンツの西本投手が得意としていたボールです。これは投球時に手のひらを内から外へと返します。肘を痛める可能性の高い投法でした。アメリカでは、これをシュートとは言わずにスクリューボールと呼んでいました。今は、このような手首の返しは行わず、ツーシームで比較的自然な投法で、変化させるのです。

 昨日のダルビッシュ投手、速球の調子がことのほか良かったので、このツーシームとスライダーに頼ってしまいました。この場合、ツーシームの速球系で三振も取れますが、ボールが動かず、ただ速いボールとなるときがあります。それが、2本の本塁打を打たれてしまった原因かなと考えます。

 ダルビッシュ投手は試合後「自分は36歳、いつ体が壊れて引退しても大丈夫だと思って投げているので、中3日でも、中4日でも行きます」と。無理しないで!ダルビッシュ投手、あのナックルボーラー、ニークロ投手を思い出してください。彼は確か48歳でのヒットノーランを達成していますよ。

 投手は打者に「打たれないボール」を投げれば良いのです。年齢に関係なく投手寿命は延びます。そのことを誰よりも知っているのがダルビッシュ投手でしょう。次回、多彩な変化球を操りながら好投するダルビッシュ投手を見たいと思っているのは私だけではないはずです。次回の活躍が楽しみです。