11月14日 1975年「国民皆ベース・ボールの研究」。「本」を書いてくださいとアドバイスを下さった滝口宏体育局長には、心から感謝しています。

 1975年に早稲田大学体育局に助手として採用されたとき、最初の面接で、滝口宏局長から「これからの体育系の教員は、『本』を書いてください」とお願いされました。その年の秋に早速体育局の教務から、「ソフトボールの教科書となる『本』の依頼が成美堂出版から来ています。先生宜しく」とのこと。責任重大ですが、私は嬉しさいっぱいです。どうせ書かせてもらうのなら、野球でいえば「ドジャースの戦法」のようにチームや選手の教科書となるような書籍にしようと決心しました。

 1977年、戦後より小学校の体育科に必修授業として採用されていた「ソフトボール」が突然文科省の意向でなくなる、ちょうど1年半ほど前のことでした。

 書籍のタイトルは「写真で見るソフトボール」。内容は、入門編、技術編、審判編、資料編に分かれます。入門編では、ソフトボールの日本やアメリカでの歴史、特質、施設や用具の説明。技術編では、「投げる」「捕る」「打つ」「走る」を一流選手の写真を使用しての解説。審判編では、試合の裁定法、記録のつけ方を解説。最後の資料編では、用語の解説、アメリカで盛んに行われていた14インチと16インチのソフトボールを使用してのファーストピッチやスローピッチの紹介。等でした。

 この本は、大変なベストセラーになりました。そのためか、本書を出版した後も毎年2,3の他の出版社から次々と執筆の依頼が来たのでした。

 この本で、現在のティーボールと深く関係している個所を引っ張り出してみましょう。先ずは、26ページから29ページの「4,アメリカ各地のソフトボール施設」、そして「30と31ページの5,アメリカ各地のソフトボール施設」です。9月23日の「理事長からのメッセージ」でも紹介しましたが、下図が当時アメリカが学校を設立するときに必要とした校舎と運動場です。その中には、小学校のソフトボール球場と中・高等学校のソフトボール場が多くあります。

 ここに再びその図を貼り付けてください。

 SPORT AND RECREATION FACILITIES ; FOR SCHOOL  AND  COMMUNITYより

 左が小学校の校庭です。ソフトボール場が4面。小学生ではありますが、男子のエリアと女子のそれとは場所が分かれています。次に、中学校と高校のビルディングと校庭を観てみましょう。ソフトボール場は、女子のエリアで4面、男子のエリアで4面計8面。これらは、「INTRAMURAL」 とあります。これは「レクリエーション的に楽しく行う(同好会)」という意味です。更に、ベースボール・インタースクールとあるのは所謂バースティー(部活)で行う野球のことです。これだけのソフトボール施設を各小・中・高学校で国か州で用意されれば、野球やソフトボールは、当時言われていたように、アメリカのA・S・A(アマチュア・ソフトボール・アソシエーション)は、1億2千万人の選手とファンがいる、世界最大のアマチュアスポーツ団体となれますよね。

 学校で男子と女子がこのようなグラウンドで、プレーしていると自動的に、メジャーリーグの観衆は増加します。現在はこのような学校施設を用意することは必要とされていません。だからアメリカの野球とソフトボールは衰退しつつあるのです。否、衰退しているのです。

 26ページのシカゴ市のど真ん中、ダウンタウン地区に広大なソフトボール場があります。確か今でも6面のソフトボール場が残っているはずです。でも、ソフトボールを夕方プレーしている人たちの景色を見たことがありません。同様に、ワシントンDCの21番目の球場は、ホワイトハウス前広場にありました。そこには、当時21面以上のソフトボール場があったということです。今は市民の憩いの広場になっています。ソフトボールはプレーされていません。12面ほどの子ども用アメリカ式ティーボールをプレーする場に代わった所もあります。アメリカ全土で、ソフトボールが本当に行われなくなりました。それが、アメリカにおける野球の衰退に繋がっています。(9月23日の理事長からのメッセージ参照のこと)

 当時は、このようにアメリカでは、学校や地域(コミュニティセンター)には4面、6面といったソフトボール場があります。日本においてもアメリカのように上記の施設を用意してくれると野球やソフトボールはますます普及します、というメッセージをこの本から発信したかったのでした。

 また巻末の資料の3では、「16インチのスローピッチ・ソフトボール」を日本で初めて紹介しました。これは、ソフトボールとは、「ファーストピッチのソフトボールも技術編で詳しく説明したが、この「いつでも、どこでも、誰もが、楽しくプレーできるスローピッチのソフトボール」も大切ですよ、と日本のソフトボールの愛好者に知らしめたかったからです。

 体育局助手1年目ではありましたが、早速自分の専門である「ソフトボール」と「国民皆ベースボール」の研究を始めることができたのでした。「本を書く」ことの重要性を、滝口宏体育局長からご指導いただきました。また、チャンスも頂戴しました。とても感謝しています。  さて、この「写真で見るソフトボール」を世に出した半年後に、野球・ソフトボール界にとっては大変です! 「ソフトボール」が学校教育から消えることになるのです。(続く)